飛騨の里山から南魚沼の里山を訪れる

過去に525日間で30ヶ国ほどを夫婦で放浪した我が家では、その後の我が子が幼少の頃から10年以上も子どもを連れて、世界を旅する生活をしてきた。私自身は成人して初めて日本を出たのだが、我が子は10歳の時でも既にスリランカ、ボルネオ、南アフリカなどを含め、10カ国以上を訪れている。

「〜〜行く？」と子供に投げかけると、決まって戻ってくる問いかけが「そこで何ができるの？　アクティビティ」と聞き返されるのが常である我が家にとってCovid-19の襲来はとても大きな影響を与えた。我が子の心には年に一度はどこか海外に行ける、各国の自然や動物に触れる旅がデフォルトとなっているので、それらと同等のインパクトを与えられるデスティネーションを国内で探さなくてはならない。

そんなこんなで、このコロナ禍ではデスティネーション選びに加え、移動そのものをアクティビティ化する自転車旅というスタイルを採り入れ、数日間、しまなみ海道や能登半島などを走る旅をやってみたり、我が家の国内での楽しみ方を模索している。

そんな中、今回の旅はあえて逆説的に、新潟・南魚沼の里山を楽しむ旅とした。飛騨の里山をフィールドとしSATOYAMA EXPERIENCEを運営している我が家にとっては、飛騨の日常とさほど変わらない環境とも言えるが、その環境をどう楽しめるのか？そんな考えを頭の中で巡らせながら新潟までクルマを走らせた。

オープン間もないここ龍言は、老舗温泉旅館を今、むしろ未来型にリノベーションされた他に見たこともないスタイルの宿である。

温泉、食事という日本人旅の抑えどころを抑えることは言うまでもなく、この地のライフスタイルに触れられる様々な趣向が凝らされている。訪れたのは夏であったが、豪雪地帯ならではの雪国文化をリアルに体感できるというコンセプトらしい。

到着して、荷物を部屋に運んだあとは、子供に背中を押され、早速、eBikeをレンタルし南魚沼の里山へ。

一見おなじに見える風景でも、飛騨里山サイクリングを2010年に始めた僕から見ると、民家の造りは豪雪に耐え得る構造になっていたり、地形に合わせた集落形態であったり、田んぼのサイズが異なるために機械や作業そのものに違いがあったりと、ガイドがいなくても様々な気付きが頭をめぐる。

もちろん子どもたちは、このようなマニアックな目は持っていないが、普段乗らないeBikeにまたがると、似て非なる乗り物であることに気づき、２人であれやこれや乗り方を試したりして、ご満悦だった。また、僕たちは利用しなかったが、このeBikeレンタルには音声ガイド機能も利用でき、セルフガイデドツアー（レンタル）でも、このエリアの様々な情報が得られる準備がなされている。

ゆったりと走ったあと、宿に戻ると僕らを待ち受けているのは、もちろん露天風呂。大した運動強度でなくても、体を動かしたあと、露天風呂に体を浸すことはなんとも贅沢なものである。

我が子からのブーイングは織り込み済みとし、アルコール入りの冷たいドリンクを片手に至福のときを過ごした。

今回滞在したのは、露天風呂付きの部屋なので、しっぽり部屋に籠もることもできるのだが、この宿はパブリックスペースの開放感がなんとも贅沢な作りとなっている。雪ぶかいこの地の生活様式をモダンにアレンジしたしつらえに身を置き、ドリンクを片手にボーッと佇むことができる。

温泉旅館2.0とでも言うのであろうか。一般的に想像する温泉旅館を大きくアップデートした、ここ龍言。

アクティブ・ファミリー故に、前後に別の地でのキャンプを挟み、宿には一泊二日の滞在として予定を組んだが、この宿を堪能するには、まったくもって時間が足らなかった。また、子供抜きで来たら異なる時間が過ごせるだろうなという邪念もアタマに浮かんだりもした。笑

山田 拓 Taku Yamada

外資系コンサルティング会社を退職し、足かけ2年にわたる世界のツーリズムを学ぶ旅を経て、飛騨古川に移住。「里山からSATOYAMAへ」を掲げ、イナカを巡る外国人向けプラットフォームSATOYAMA EXPERIENCEをはじめ、民家などの地域資源を活用したグローバルマーケットを視野に入れた数々の地域再生ソリューションをプロデュース。
2013年、地域づくり総務大臣表彰にて個人表彰を受けるほか、グッドデザイン賞、環境大臣賞など、多方面からの評価を受ける。近年は古民家をオフィス用途に転用した「里山オフィスプロジェクト」にも着手。創業後も年に一度の海外への旅は欠かさない。奈良県生まれ、株式会社美ら地球(ちゅらぼし)CEO。内閣官房　地域活性化伝道師、クールジャパン・地域プロデューサー、総務省地域力創造アドバイザー
著書に「外国人が熱狂するクールな田舎の作り方」（新潮新書）がある。